福祉の現実と私たちの役割

20年近く前の話です。

雨が強く降る朝、私は幹線道路を走っていました。ふと歩道に視線を向けると、一人の高齢者が車いすに乗ったまま、合羽を着て佇んでいる姿が目に入りました。その方は、雨に打たれながらじっと動かず、周囲に家族の姿はなく、ただ一人でそこにいました。

おそらく、デイサービスの送迎車を待っていたのでしょう。しかし、時間が過ぎる中で、雨に打たれ続けているその方の姿には、どこか悲しさや孤独感が漂っていました。

その光景を目にした瞬間、私の心は締めつけられるようなやるせない気持ちでいっぱいになりました。家族や介護スタッフの誰も近くにいない中で、高齢者が雨に濡れながらじっとしている様子は、私たちが関わる福祉の現実の一面を象徴しているように感じたのです。福祉の現場では、多くの高齢者が日々支援を受けながら生活していますが、その支援の手が全ての瞬間に届くとは限りません。雨に打たれているその方の姿は、まだまだ社会全体としてのサポートが不十分であることを痛感させられました。

この経験を通して、私たちが日々提供しているサービスの重要性を改めて実感しました。一人ひとりに寄り添い、彼らが安心して生活できる環境を作り出すことこそが、福祉の本質だと強く感じたのです。人は一人では生きられません。そして、私たちの仕事には終わりがなく、どんな状況でも相手の立場に立ち、必要な支援を常に考え続けることが求められているのです。

あの日、雨の中で一人待ち続けていた高齢者の姿は、今も私の記憶に鮮明に残っています。あの時感じた気持ちを忘れず、これからも自分にできることを探し続けていきたいと思います。