デイサービスに通うある男性高齢者は、習字の時間になるといつも「老いては子に従え」という言葉を書かれます。彼はかつて書道教室の先生をしていたため、その筆遣いは見事で、職員から称賛されるたびに控えめに「大したことはない」とおっしゃいます。しかし、その言葉や表情の奥には、少し複雑な思いが隠れているように感じます。
「老いては子に従え」という言葉は、年齢を重ねた親が子供に世話を任せるという意味ですが、彼の場合、生活のほとんどを介護をする子供に頼らざるを得ない現実があります。自分の力で生きてきた彼にとって、その現状は決して簡単に受け入れられるものではなく、書くたびに感じる複雑な感情があるのでしょう。
彼が選ぶこの言葉には、今の自分を受け入れながらも、かつての自分への想いや、今の状況に対する切ない気持ちが込められているようです。習字の時間、静かにこの言葉を書く彼を見ていると、ただの一言以上の深い意味が感じられます。
私たち職員は、その思いに気づきながら、彼が少しでも安らぎを感じられるようにサポートしていきたいと思います。彼が毎回選ぶこの言葉が、少しでも心穏やかなものであるように願いながら、寄り添った支援を続けていきます。